1400億年後の君に

1400億年後、宇宙の熱は均一になり、終焉を迎える。

人間がどんなに努力しても、それは変わらない。
私の心には虚しさと、だからこそ、人が生きた一瞬の出来事に、いとおしさを覚える。

宇宙もまた、私の心と同じように、離れようとする斥力と、互いに引き合う引力の、2つの力が働いている。
全体的に見れば、宇宙に生じるエネルギーは全体に渡り、拡散しようとしている。
どこまでも、どこまでも、果てしない空間を広げていき、やがてすべてが均一になったとき、宇宙は活動することを止める。

それに反し、エネルギーの集中や宇宙の縮小といったことが、局所的に発生している。

宇宙の初期にあったエネルギーの渦の中から物質が誕生し、熱が拡散していく過程で、さまざな銀河が生まれた。
その中の一つの銀河から、地球という星が生まれ、炭素化合物の有機生命体はやがて人類を誕生させた。

宇宙の歴史から見ればほんの一瞬の間に人間は存在し、一瞬にも満たない刹那の瞬間に、一人の人間の一生がある。

そんな瞬間にしか存在しない一人の人間も、生きるという瞬間の間に、様々なことをする。
その様々なことの中で、多くの時間を人は、何かを経験するということと、記憶したことを反芻するということで費やす。

人は自分個人の収入をあげるためでも、自分一人が心地よく生きるために、勉強したり学習するわけではなく、一人の人間の経験を、普遍性へと広げ、理解を広げるために、生きている。

だけどそれではどきどき寂しくなって、人は個人的な思いや体験を心に集め、大事にする。

そうして人がもたらした普遍性と、個人的な思いは宇宙の記憶に刻まれる。
私の記憶も、彼の記憶も、もちろんあなたの記憶も、あらゆる人間の記憶を宇宙は覚えている。

口に含んだチョコレートの甘み。
新緑の深い緑の優しさ。
些細なこと。
アヒルのオモチャ。
ぬいぐるみ。
ノートに書いた落書き。
誰かを好きだったこと。
夜空に輝く星々。
梟の鳴く声。
海の水の冷たさ。
白米の上の湯気の揺らぎ。
あなたが生きて経験したすべてが、かけがえのない記憶として刻まれている。

やがて、時間は残酷なように過ぎていく。
私もあなたも、やがて亡くなるだろう。
人類もやがて滅びてしまう。
地球の寿命も尽きて、太陽もやがて燃え尽きる。
太陽系がなくなり、銀河系もなくなり、すべての物質は崩壊し、あらゆる粒子は消えてなくなる。
1400億年後、普遍に広がったエネルギーに満たされながら、宇宙はすべての記憶を反芻し、宇宙は再び、あなたのこと、あなたの経験したことを、いとおしく思い出す。

掲示板の文字。
エメラルドの輝き。
アイスクリーム。
絹の肌触り。
雨の匂い。
あらゆる興奮。
嬉しかったこと。
幸福の感情。
感謝。
生きて経験したすべて。

1400億年後の君に、再び会えることを嬉しく思う。
そして今、あなたという存在があることに感謝する。
ありがとう。

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純文学作家(自称)