100万回も死んだ男がいました。
100万回も生きて100万回も 死んだのです。
男はあるとき、王様でした。
王さまは戦争が好きで、いつも戦争をしていました。
国の男たちのほとんどは戦争で死に、男も戦争で死にました。王様は自分が何で死んだ
のか分かりませんでした。
王様が死ぬと、その国は他国に侵略されて無くなりました。
男はあるとき、捨て子でした。大人になっても貧しい暮らしをしていました。
男は一生懸命生きました。それでも、何で自分が貧しいのか分かりませんでした。
男はやがて、病気で死にました。
男はあるとき、侍でした。
小さい頃から規律と礼儀が心と体に染み付いていました。
男は何一つ疑問に思わず国のために戦い、国のために死にました。
男はあるとき、お金持ちでした。
豪邸にすみ、家にはお手伝いさんがたくさんいました。
お金はどんどん増えるので、男は私財を寄付したり、公共のために使いました。それでもたくさんのお金が残っていました。
お金を何に使おうか迷っているうちに、男はやがて老いて死にました。
男はあるとき、愛する人と一緒にいました。毎日愛する人のことだけを考え生きていました。二人は幸せでした。来世も一緒にいようと二人は言いました。
やがて二人は老いて、愛する人は亡くなりました。男は慟哭しました。何日も何日も泣きました。やがて泣き疲れると、愛する人の位牌に向かって男はいいました。『愛してくれてありがとう』。
男もまた、間をおかずに死にました。
男はあるとき、平凡な男でした。普通に仕事をし、普通に暮らしていました。
男には暮らすだけの僅かなお金しかありませんでしたが、男はそれで満足でした。
戦争もなく、何かの犠牲になることもありませんでした。
心の底には深い悲しみと人間に対する愛情があったかもしれません。
男は自分のために、そして人のために生きました。
そんな日々を、男は喜びかみしめるように生きました。
男はやがて死にました。
男はもう二度と、死ぬことはありませんでした。
祭多まつりのWEB SITE
純文学作家(自称)
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