ある方が発してくれた言葉のおかげで、15年ほど前に小説の師匠に言われていたことを思い出した。
私はその頃、ネット上の投稿サイトに小説を掲載していた。
たまたま私の投稿を読んでくれた師匠は、私の文章を気に入ってくださり、ときどきアドバイスのような、いや、自由気ままにコメントをくれるようになった。
はじめは小説好きの還暦近くのお姉さんと思っていたが、コメントはいつも的確で、批評も嫌みのない心地よいものであった。
後で漫画家の先生だったと知るが、私にとっては、今でも私の小説の師匠だと思っている。
その師匠に言われていたことで胸に残っているのが「自分の作品を自分で一番愛しなさい」ということである。
私は投稿していた作品を途中でよく挫折していた。
書いている途中で、作品がよそよそしくなってしまうのである。
そうなると続きはもう書けなくなる。
別れた恋人のように、作品はもう他人となってしまうのだった。
師匠にとってもそれは歯がゆいものだったのだろう。
「作品と心中しろ」といった言葉や、「途中でやめるなら書くな」といった厳しくも、今思えば暖かい言葉もあった。
そして常々、「作品の一番の読者は自分なのだから、自分がまず好きにならないとだめだ」と言っていた。
「技巧やレトリックなんてものは後でいくらでも書き直せる。だけど情熱を持って書くことは、後からは直せない」といったことや「人は技巧に感動するのではなく、好きなものを好きだということを形を変えて表現することで人には伝わる」といったことを、熱をこめて教えてくれた。
師匠は私が作家になること応援してくれていたが、私はそれからもやっぱり途中で書けなくなってしまったり、別のことにかまけているうちに、とうとう私の本を師匠に贈ることができなくなった。
今さらながら、そんな師匠の言葉を噛み締めている。
祭多まつりのWEB SITE
純文学作家(自称)
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