文学の力

私はほとんどの小説を、死者やこれから死のうとする者のために書いている。
生きる楽しみのための小説は、才能ある書き手が沢山いるため、世に沢山ある。
だが、死者を救うような小説は、宗教小説を除き、あまりないのが実情である。
日本ではいまだ、年間に自殺するものが二万人を越えて存在する。
特に15歳~35歳の若年による自殺が顕著である。
彼らを死へと歩ませるものは何か。
その歩みを止まらせるものは何か。
音楽で救われる者は音楽で救われたらよい。
絵画で救われる者は絵画で救われたらよい。
美味い料理に救われる者は料理に救われたらよい。
だが、これから死のうとする者が、文学を読むのだろうか。
読むのである。
私がそうであった。
昨日の話に戻るが、海から戻った私がすぐに、よし、貰った命だから明日から元気に生きよう!とは、ならなかった。
私はもう一度死にとりつかれ、この世で最後に本を読もうと、決断したのである。
私は本によって救われた存在である。

冥い夜に一人凍える魂がある。
巷で言われているような「行動が大事」と言った言葉を私は言わない。
生きていれば、どうにもならない夜というものがある。
自らの腕を噛んで、叫びを我慢しないといけない夜というものがある。
慟哭のあまり、走って電車に飛び込みたくなる夜というものがある。
動かずに、その夜を越えられる力が彼らの心に宿るように、私は文学をする。
だから、私は、まだ死なない。
死んでたまるか。

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純文学作家(自称)