秋にもうける

君に痺れるほどに恋をしていたのはいつだったろうか。
あれから数年たち、恋は実りはしなかったけれど、それは消えることのない友情に変わった。
久方ぶりに君からの知らせを聞いて僕は君ほどに嬉しく思う。
秋、珠玉のような君が珠玉のような赤子を一人もうける。


人はどうにでも生きられる。だからといって世を捨てるわけではなく、執着を捨て、無駄を捨てる。
やるべきことをしているうちに、果報は知らぬ間に実り落つ。
秋、夢中のうちに覚めてみれば、知らぬうちに財を儲ける。


祝いの酒を口に含む。
杯を酌んでは乾かし、しばしの酔いに饒舌が増す。
繰り返す感謝の言葉もすでに聞き飽きてはいるが言い足りぬ。
呂律の回らぬ口ぶりに君は終始笑っている。
秋、祝いのためか飲むためか、酒宴の席を一席設ける。


夜もふけて、酔いの冷ましに外に出れば、月が妖しく輝いている。
君もあとからやってきて、まわるい光にみとれている。
僕は思わず口に出す。
「月が綺麗ですね」
二人は顔を見合って笑いだす。
秋、意図せぬ言葉に驚いて、文豪のセリフも君にウケる。

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純文学作家(自称)