偽りの風に吹かれて

戦後最大と言われた台風がきたのはいつだったろうか。
確かあれは、僕が高校3年生の時のことだった。
その日は高校の学園祭の日で、僕は密かにある計画を立てていた。
僕の通っていた埼玉県の県立高校の学園祭は、その当時人気のあったテレビ番組を模した企画があることで有名だった。
それは、深夜にとんねるずが司会をしていたねるとんという番組である。
若い人は知らないかもしれない。
初対面の男女が集まり、自己アピールの時間と、数時間の雑談時間を一緒に過ごす。
それが終わると告白の時間がやってきて、男性側が(女性の場合もある)、気に入った女性に告白し、見事OKの返事を貰えれば、カップルが誕生するという番組だ。
その年の生徒会長、つまり司会役の男は僕の親友で、僕は企画を盛り上げるために、サクラ役を頼まれていた。
当然、女の子側にも一人サクラが紛れこむのを知っている。
女の子側のさくらは親友と同じクラスで生徒会役員をしている娘だった。
運営側が立てた筋書は、他校同士の告白は流れに任せる。
他校の男子生徒がうちの女子に告白する場合は、僕がまったをかける。
うちの男子生徒は他校の女子に告白する。
というものだった。
このサクラの抜擢は願ってもないチャンスだった。
そう、僕は前々からその生徒会役員の女の子が好きだった。
企画を利用し、その女の子に真剣に告白しようと思ったのだった。
筋書がかわっても、強引に告白しようと思っていた。
告白の時に差し出す一輪挿しの花の他に、彼女に似合いそうなアクセサリーも買っていた。 
返事を貰える可能性は分からなかったが、親友から、彼女の方からサクラ役の男子は僕にして欲しいと頼まれた、と聞いていた。
打ち合わせの時の、彼女の赤らんだ頬をみて、僕はますます彼女を好きになっていた。 

そして当日。
朝から台風は関東を襲った。
学園祭に延期はない。
僕は嵐の中、自転車を走らせた。
普段30分で着く道程を、2時間かけて懸命にこいで向かった。
途中、傘を四本駄目にした。
誰もいない国道を看板やら板きれが舞い、家の瓦が失くなっている家もあった。
僕は前に進むことだけを考えた。
車さえ走っていない。
途中で手にマメができた。
ハンドルを握る手から血がふきだしても、僕は懸命に前に進んだ。
ズボンは破れ、全身びしょ濡れだった。
ようやく高校に辿りつくと、そこには誰もいなかった。
ひとけのない校舎は、時が止まったように静まりかえっていた。
僕は校庭の真ん中で大の字になり、精一杯でかい声で泣いた。
嘘だ。台風も!学園祭も! 彼女も!すべて嘘だ!
僕はどうにもならない現実の前で、わけもわからず叫び続けた。
だが、声も涙も豪雨がかき消してくれていた・・・・
その後、彼女に告白はしなかった。
僕はつきものが落ちたようにその後の学園生活を送った。
親友と彼女は国立の同じ大学に進学し、僕は一浪して別の私大に進学した。
卒業後、三人で集まったことがあったが、何を話たかは覚えていない。
二人は付き合いはじめ、僕もまた、同じ大学の女の子と恋に落ちた。
あの日が晴れでもし告白が成功していたら、なんて考えることに、どれだけの意味があるだろう。
ただ台風がくると、僕はなぜか、あの日のように前に進みたくなる。


※70%創作です。

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