晩秋に、くむ

秋風に並んだ花穂(かすい)が幽かに揺れている。
春の季節は春らしいことをせず過ごし、夏の季節は夏らしいことをせず過ごし、秋の季節は秋らしいことをせず過ごす。
置いていかれた年月(としつき)の、移り変わりにため息を漏らし、仮庵(かりほ)の中で心は微かに揺れている。
晩秋の朝、遅れた季節に何かを探そうと、年末までの僅かな季節の、予定を組む。


黍嵐(きびあらし)が不安を煽るように戸をたたく。
したいことをしたいと言わず、嫌なことを嫌とは言わず、無難なことばかりに時間をかける。
変化のない暮らしの中で秋の空に息合いしたか、返事のない過ぎゆく時間の中で不安を抱く。
晩秋の昼、重ねた時間と重ねた思いの不足を心で詫びて、人の思いを、心に汲む。


野分(のわき)去り刈穂の後の田んぼがすっかり荒れている。
朝日が登った後で遅く起き、日中の太陽を拝む暇なく部屋にいて、夜にようやく街に出る。
夜空に浮かぶ満月の、明かりの下で短息し、心はすっかり荒れている。
晩秋の夜、静まぬ心の慰み求めて、財布の中の僅かな金で、酒を酌む。


空風(からかぜ)が山から麓に降りて街を冷ます。
空の心と空の財布に気づいたときに、季節の道理を道理と知り、人の道理を道理と知る。
日常が日常として過ぎることに嘆息をもらし、心はすっかり澄んで酔いがさめる。
晩秋の朝、残された時間にやるべきことを見つけ、人の助けになることを心に誓う、それは、苦無(くむ)。

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純文学作家(自称)