夏に、うつ

季節と人の移り変わりはこの世の常だと知ったのは、生まれてから何度目かの初夏。
何をしてもどうせみんな死ぬんだと、悟ったように膝をかかえたあの頃の僕はきっと鬱。 

裸で青ざめて立ち、それでも救われようとして、家も飛び出し旅をはじめたのは青空の広がる盛夏。
分け入った森の湖のほとりで水を飲む一匹の鹿に、生きることの意味を教わり心をうつ。 

英雄の存在し得ない時代で、それでも人は活人という大義をかざして悪を討つ。
僕もまた、人を伺い、自分に怯え、己の中の鬼を伐つ。

夏が散る。
この世の常を常として、人は今を生きている。
愉快なときに人は笑い、悲しいときに人は泣く。
それを知ったとき、夏の夜の夢のような人生も、悪くないとひとり微笑む。
あの頃と何かが変わったわけではないけれど、生きていることの何気ないことが嬉しくて、おはようと、晩夏の朝の光りの中で僕はあなたたにメールを打つ。 

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純文学作家(自称)