初夏に、あく

鬱屈した日々が続き、抑圧された感情が別の意思を纏って心に募る。
晴れない空の下で、眼差しまでもが曇っていく。
閉ざした岩戸の闇の中で、時間ばかりが過ぎていき、幽離した意志は他者の存在を否定する。
そんな人の感情などとは関係なしに季節はすぎて、強い日差しとともに、梅雨が開く。

秋に覚えた人の習いを放り出し、冬に知った芸のさわりを瞳に映すが眠くなる。
春の夢には嫌気がさして、夏の誘いが億劫になる。
初夏、人が為すこと、人が人でいることにすっかり飽く。

上昇する気温とは裏腹に、心はどこまでも冷めていく。
知った顔を一つ一つ心から消していき、覚えたことを一つ一つ頭から消していく。
名前を忘れ、言葉を忘れ、最後に残った自我も消して、頭と心がすべて空く。

すべてを無くした後で無我のままで岩戸を開ける。
闇の世界が光に包まれる。
空の頭と心に意識が宿る。新たな心とともに、新たな世界が幕を明く。

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純文学作家(自称)