馬鹿一と私

馬鹿一は武者小路実篤の小説『真理先生』の登場人物である。
馬鹿一は純粋で絵を書くのが好きで、いつも石ころや雑草の絵ばかりを描いている。彼の良さは真理先生しか分からず、いつもみなから馬鹿にされているが、私もまた、馬鹿一が好きなのである。
もし馬鹿一と私が出会ったら、ということを夢想していたらいくつか文章が出来上がった。


馬鹿一と拾い物
馬鹿一は今日、財布が落ちていたのでそれを拾って交番に届けた。
警察官は書類を書いて馬鹿一を労った。
馬鹿一はその後、運を落とした。
馬鹿一は交番にいったが、相手にされなかった。
私は馬鹿一を慰めてやった。
馬鹿一はその後、幸福を拾った。
馬鹿一はそれを再び交番に届けた。
警察官は幸福をポケットにしまって、馬鹿一を外に追い出した。
その後私と馬鹿一は二人で泣いた。 


馬鹿一と天気
馬鹿一は晴れの日が好きで、太陽がでると喜んで外に飛び出していく。
そうして汗をかきすぎて、翌日には決まって熱を出す。
馬鹿一は曇りの日が好きで、日蔭の中で思いきり駆けて遊ぶ。
そうしてはしゃぎすぎて、翌日には決まって熱を出す。
馬鹿一は雨の日が好きで、雨の中を口を空けて空を見ている。
そうして雨に濡れすぎて、翌日には決まって熱をだす。
私は馬鹿一に尋ねたことがある。
今日はほとほどにして、明日も遊べばいいじゃないかと。
そしたら馬鹿一のやつはこう言った。
『今日が精一杯で明日のことは考えられない』と。
私と馬鹿一は二人で笑い転げた。
それから私は二日に一回、馬鹿一と遊ぶようになった。 

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純文学作家(自称)