ある行為について人は、愛だとか遊びだとか、いろいろ言葉をつけたがるものだが、ほんとのところは誰にも分からないのである・・・(ルイ・ベネディクト)
今から4年ほど前のことである。
ピュアかどうかは分からないが、それは確かに、ピュアという名の掲示板に掲載されていた。
「噛ませて下さい」
もちろんあれの最中であれば肩など噛まれるのは嫌いではない。
だがきっと、そういうことは望んでないのだと予感できた。
であれば問題は、その娘が僕を噛めるかどうかだ。
そういうことは聞かなきゃ分からない。
なのでメッセージを送る。
「俺で良いですか?」
すぐに返事がきて、誰でもよいという。
ならばそれ以上の詮索は無用だろう。
噛みたい女がいて、噛まれてもいいと思う男がいる。
当日夜、仕事終わりに新宿に向かった。
21時。賑わう居酒屋の隅のテーブル座り、僕は左手を目の前に座る名も知らぬ若い女の前に差し出す。
彼女は両手で僕の腕をとり、口の高さまで持ち上げる。
一度だけ僕を見るとすぐに視線を落とし「ほんとにいいの?」と不安そうにたずねてくる。
「遠慮はいらない」
僕は彼女を見つめて笑ってこたえる。
僕の甲はゆっくり彼女の口に運ばれ、次の瞬間、僕は激痛に襲われる。
ほんとに遠慮のない噛み方で、甲の肉に歯を食い込ませている。
ごりごりと咀嚼する音をききながら、1分か2分か、そうして僕は痛みとともに彼女の行為を見つめていた。
ようやく彼女が口を離すと、親指と人差し指の付け根辺りの肉がめくれていた。
彼女は不満そうに「ちぎれないんだね」なんていう。
それで僕も妙に納得して「ちぎれないんだね」と繰り返した。
それから「血を飲みたい」という彼女の要求で、カッターで親指に線をつけると、赤い玉がどんどんでてきた。
彼女はそれをしばらくの間口に含んで舐めていた。
やがて血は止まって、彼女はありがとうと帰っていった。
僕はしばらく席に座り考えていたが、やがてそれが徒労に終わることを知って席をたった。
傷は今でも私の左手に残り続けている。
祭多まつりのWEB SITE
純文学作家(自称)
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