向日葵の言葉

昨日の記憶が朧気である。
終電を寝過ごし、二駅を歩いて帰ったのは覚えている。
途中一軒寄って帰ろうかと思ったが、すでに酔いは限界に近いことも分かっていた。
休憩がてらに豚骨ラーメンを食べ、店をでたところで、以前に贔屓にしていた店の贔屓にしていた人に一年ぶりに偶然出会い、変わらぬ態度に安心したのである。
それからまた歩きはじめたが、腹に入ったラーメンが眠気を急激に押し上げてきた。
何とか頑張って200メートルほど進んだが、ベンチを見つけ、とうとうそこで寝込んでしまったのである。
目覚めると、奇跡的に所持品は何も失くなっていなかったが、雨を全身に浴びていた。
身体の力が入らない。
鞄から携帯電話をとりだし、会社の上司に遅刻することをメールで伝え、シャワーを浴びるためにホテルに向かったのだった。
歩きながら、徐々に昨夜の奇行の記憶が甦ってきた。
会社の同僚と入った店で、客の誰かの誕生日パーティーが行われていた。
跳ねるようなカラオケが次々に歌われていく中で、私が入れたバースデーソングに火がついた。
気づけば見知らぬ男たちに囲まれて、夜の蒲田を徘徊することとなったのである。
それから記憶は途切れ途切れで、気付けば午前4時である。
ようやくホテルにつき、私は服を脱ぎ捨て頭からシャワーを浴びた。
しぶきが全身にあたり、身体の凝りがほぐれていく。
「何でライン消すの?」と聞かれた言葉を思い出す。
アカウントを消すのと同時に消えるのは、二人の関係性であり、つながりある。 
きっと私は、つながりを断つことで、自身に湧いた想いを消そうとしている。
火がつけば、決して消せない感情が心にあることを、私は知っている。
燃え広がる前なら火は消せる。
だが、それを伝えるには言葉が足りない。
私はそうして同じことを繰り返す。
シャワーのノズルを最大限まで捻ると、頭を打つ水圧に思わず潰れそうになりながら、今書きかけている「向日葵の言葉」という小説のことを考える。
向日葵の花言葉は『あなただけを見つめます』だ。
悲劇的なギリシャ神話が元となったひまわりの物語を、私の言葉で作り変える。
また、ひまわりと言えばゴッホの黄色だが、黄色は人の精神を高揚させる色でもある。
ゴッホは黄色を見つめすぎて狂ってピストル自殺したとも言われている。
私の小説でも、ひまわりのようなアイドルを追いかける男が、だんだん狂いはじめていく。
アイドルと交わす虚構の言葉が、現実に侵入してくる。
やがて男は・・・
私はこの物語を完成させられるだろうか。
それとも先に狂ってしまうだろうか。
ジリジリと心の中で火がつき、燃え広がろうとしている。
私自身を燃やしてしまうように。

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純文学作家(自称)